餃子の王将「国産食材・レシピ改良」路線は本当に正解だったのか──値上げで売上は伸びても、客が望んでいたのは別のものだった

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餃子の王将の経営方針には、ずっと違和感がある。国産食材へのこだわり、頻繁なレシピ改定、料理のグレードアップ──どれも企業努力としては立派だ。だが、王将に通ってきた客が本当に求めていたのは、その方向性だったのか。

客が王将のカウンターに座って期待しているのは、シンプルに「安くて、量があって、すぐ出てくる中華」だ。料亭の真似事ではない。ここを取り違えると、数字上の売上は伸びても、ブランドが長期的にやせ細っていく。今回はその構造を、実際の決算データと現場感覚の両方から掘り下げる。

売上は過去最高、でも「中身」を見ると話は変わる

まず事実関係を押さえておこう。王将フードサービスは2025年3月期に売上高1,168億円、3年連続で過去最高を更新した。2022年以降5回の値上げを行いながら、既存店客数も底堅く推移している(参考:Business Journal)

ここだけ切り取れば「値上げ成功」の優等生企業だ。しかし、この数字には注意がいる。売上を押し上げているのは客単価であって、客の絶対数を爆発的に増やしたわけではない。値上げすればそりゃ売上金額は上がる。当たり前の話だ。問題は、その下で何が静かに進行しているか、である。

客単価は伸びたが、原価率と人件費も同時に膨らんでいる

noteや業界紙の分析を読み込むと、王将の売上総利益率はおおむね68%前後で安定しているが、原価率は約31%前後、ここに人件費・光熱費・物流費が重く乗っている(参考:note分析記事)。つまり値上げ分の多くは、コスト上昇の穴埋めに消えている。「収益が少なくなっているのは原価がかかっているから」というのは、感覚論ではなく決算書を見れば素直に読み取れる事実だ。

[図解挿入:王将の売上・客単価・原価率の推移グラフ/alt=”餃子の王将 値上げ 客単価 原価率 推移”]

国産食材・レシピ改良という「正解っぽい打ち手」のズレ

ここからが本題だ。経営陣はこの10年近く、国産食材の使用比率を上げ、レシピをこまめに改定し、料理を一段“格上げ”しようと熱心に取り組んできた。方向性としては美しい。SDGs、フードロス、品質訴求──プレゼン資料にすれば100点だろう。

だが、王将に来る客の頭の中はもっと素朴だ。「餃子1人前と中華そば、合わせて1,000円超えるなら、ちょっと違うんじゃないか」──これが現場のリアルな声である。実際、ネット上では「3年で5回の値上げ」「セットで1,300円は王将じゃない」という不満が頻繁に投稿されている(参考:現代ビジネス)

客が王将に払っていた金額の「意味」

客が王将で出していた600円〜800円は、単なる食事代ではなかった。「この値段でこれだけ食えるという驚き」に対する対価だ。ここに国産野菜の付加価値を乗せても、客の効用関数のなかでは1,000円の壁を正当化できない。なぜならその客層は、最初から品質よりコストパフォーマンスを買いに来ているからだ。

これを経営側が読み違えたまま「うちは品質で勝負している」と言い続けた場合、待っているのは静かなブランド劣化だ。今は売上高が伸びていても、リピートの密度(来店頻度)が落ち始めると、回復は難しい。月次データで客数の「伸び率」が鈍化したタイミングが、真のターニングポイントになる。

[画像挿入:餃子と中華そばのセット/alt=”餃子の王将 餃子 中華そば セット”]

同業他社と比較してみると、王将の立ち位置が浮き彫りになる

チェーン 主力価格帯(餃子1人前) 戦略の軸 客の期待値
餃子の王将 約363円 国産食材・品質訴求 本来は「安さ・量」
大阪王将 約290〜330円 冷凍食品・多角化 家でも店でも王将体験
日高屋 約240円 低価格・駅前立地 とにかく安く飲んで食う
バーミヤン 約290円 ファミレス×中華 家族でゆっくり

こうして並べると分かる。王将は「品質路線」に寄りすぎて、自分の本来の顧客層と離れたゾーンに着地しつつある。日高屋は低価格を貫き、大阪王将は冷食という別収益源を太らせた。王将だけが、店内オペレーションのまま単価を引き上げる難しい道を選んでいる。

では、王将はこれから何をすべきか──私の意見

ここからは完全に私見だ。プロとして10年近くこの会社の動きを見てきて、いま打つべき手は3つあると考えている。

  1. サブブランドで価格帯を分離する。「餃子の王将ランチ」のような低価格商品の常設化はその第一歩だが、まだ弱い。500円台で完結する“原点回帰メニュー”を看板として打ち直すべきだ。
  2. レシピ改定の頻度を落とす。客は「変わらない味」を求めて通っている。改定するたびに「前のほうが良かった」という声が出るのは、変えるべきでないものを変えているサインだ。
  3. 国産食材は“裏側の物語”に留める。表に出して値上げの理由にした瞬間、客は冷める。品質はマーケティングではなく、黙ってやるべき領域である。

[図解挿入:王将が取るべき3つの戦略マップ/alt=”餃子の王将 今後の戦略 サブブランド レシピ 国産食材”]

よくある疑問への回答

Q. 値上げしても客が増えているなら、経営判断は正解では?

短期的にはそう見える。ただし、外食全体が値上げラッシュのなかで「相対的にまだ許容範囲」というだけの可能性が高い。競合他社がより安いポジションを固めた瞬間、王将の客は流れる。今の数字は「成功」ではなく「猶予期間」と読むべきだ。

Q. 国産食材へのこだわりは無駄なのか?

無駄ではない。だが、王将の客層に対して訴求力が低い、というだけの話だ。同じ投資をするなら、提供スピードや店内の清潔感に回したほうが客単価維持に効く。

Q. 10年近く収益が伸び悩んでいると聞いたが本当か?

正確には「売上高は伸びているが、利益の伸びは原価高で抑えられている」が実態だ。営業利益率は近年改善傾向にあるが、人件費と食材費の両建てプレッシャーは今後も続く(参考:王将フードサービスIR)

まとめ:王将に必要なのは「品質」より「らしさ」

餃子の王将は、決して経営に失敗しているわけではない。むしろ数字上はよくやっているほうだ。しかし、客が求めていたのは値段と量であって、グレードアップされた料理ではなかった──このシンプルな事実から目を逸らした瞬間、長年積み上げてきたブランドの輪郭がぼやけ始める。

値上げで売上を作る経営は、いつか限界に当たる。そのとき頼りになるのは「あの値段で、あの量を、あのスピードで出す店」という、客の記憶に焼き付いた像である。経営陣にはぜひ、決算書よりも先に、平日の19時の店内を見に行ってほしい。答えはそこにある。

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