国立病院の財政危機——福島党首質問の背景にある医療経営の実態

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2026年4月22日、参議院外交防衛委員会で社民党の福島みずほ党首が、装備移転円滑化基金への巨額投入に対して「だったら赤字の国立病院救えよ」と発言した。この質問の背景には、日本の公的医療機関、ことに国立病院機構(NHO)および国立大学病院が直面する深刻な経営危機がある。以下に、その財政状況の詳細を整理する。

1. 国立病院機構(NHO)の壊滅的赤字

国立病院機構は、全国で140病院・約4.8万床を運営する独立行政法人であるが、2024年度(令和6年度)の経常収支375億円の赤字に転落した。これは前年度の47億円黒字からの急転落であり、機構設立以来最大の赤字額を記録した。

【NHOの赤字構造】
・2024年度経常収支:▲375億円(前年度比422億円悪化)
・医業収支:▲408億円
・赤字病院数:117病院(前年度87病院から増加)
・黒字病院数:22病院(前年度52病院から減少)
・長期債務残高:4,305億円

この財政悪化の主因は、コロナ補助金の終了に加え、物価高騰による光熱水費医薬品費診療材料費の急増、さらに人件費の上昇にある。特に、医師の働き方改革に伴う残業時間の厳格化管理や職員処遇改善が人件費を圧迫し、収益の伸びを大きく上回る支出増を生み出している。

独立行政法人評価に関する有識者会議の議事録では、河村構成員が「このままずるずると赤字を出し続けることは、機構が存続し得ない」と指摘し、C評価(目標未達)を妥当とする意見が示された。NHOは2025年度に経常収支率100%の回復を目標に掲げているが、現状は極めて厳しい。

2. 国立大学病院——「過去最大の危機」

福島党首の質問で特に問題視されたのは、国立大学病院の状況である。全国42大学44病院からなる国立大学病院長会議は、2025年度の収支見込みを発表し、現金収支321億円の赤字、経常損益では400億円超の赤字になる可能性があると報告した。

年度 経常赤字額 赤字病院数 備考
2022年度 386億円黒字 コロナ補助金あり
2023年度 60億円赤字 速報値
2024年度 286億円赤字 30病院 71.4%が赤字
2025年度(見込) 400億円超赤字 32病院 過去最大

大鳥精司会長(千葉大学医学部附属病院長)は「過去最大の危機を迎えると言っても過言ではない」と述べ、2026年度診療報酬改定に向けて11%のプラス改定が必要だと強く訴えた。しかし、実際の改定率は3.09%に決着し、「まだまだ全然足りない」との声が上がっている。

特に深刻なのは、東京科学大学(旧東京医科歯科大)のように、収益増努力(病床稼働率8割回復、医業収入55億円増)をしても、固定費(光熱費・人件費)が73億円も増え、赤字が30億円以上に膨らむケースである。これは「増収減益」の構造を象徴している。

3. 赤字拡大の構造要因

国立病院の経営危機は、単なる一時的な不況ではなく、構造的な問題を抱えている。

(1)診療報酬の価格転嫁不能
日本の医療機関は保険医療機関として、診療報酬(国が定める医療サービスの価格)で運営される。しかし、この診療報酬は2年に1回の改定であり、物価高騰人件費上昇に追いついていない。2022年度比で医薬品費は14.4%増、診療材料費は14.1%増となっているが、収益の伸びはその半分以下にとどまっている。

(2)高度医療の「赤字覚悟」
国立大学病院は臓器移植(全国の84.4%)、心臓移植(77.6%)、肺移植(100%)などの高度医療を担うが、これらは「やればやるほど赤字になる」側面がある。数千万円の高額薬剤やロボット手術の管理・運用費がかさみ、採算を度外視した医療提供が求められるからである。

(3)医師の研究時間削減
経営悪化により医師が診療に追われ、研究時間が削減されている。全国医学部長病院長会議の調査では、研究時間「週平均5時間以内」の医師が60.0%に達し、新薬開発治療法確立に支障をきたしている。

(4)施設・機器の老朽化
NHOでは築40年超の外来棟が74病院(53%)、病棟が33病院(24%)に上り、建て替え資金が不足している。医療機器の更新もままならず、耐用年数切れの機材を使い続ける病院が少なくない。

4. 公立病院・医療機関全体の連鎖危機

国立病院のみならず、公立病院も同様の危機にある。総務省発表の2024年度決算では、公立病院の83.3%が経常赤字に転落し、赤字額合計は3,952億円に達した。これは前年度の約2倍である。

日本医師会の緊急調査(2025年10月)では、医業利益の赤字割合は国立92.5%、公立96.6%に上り、「患者を守る地域医療の崩壊」を招くと警鐘を鳴らしている。

さらに、帝国データバンクによると、2025年の医療機関の倒産は66件で過去最多を記録。京都新町病院(90床)など、存続の危機に瀕する病院が相次いでいる。

5. 政府の対応と限界

政府は補正予算診療報酬改定で対応してきたが、病院側は「毎回補正に頼るのは現実的ではない」(大鳥会長)と指摘。NHOは2025年12月にNHOビジョンを策定し、経営改善総合プランを立てたが、根本的な収益構造の改革には至っていない。

特に、運営費交付金の削減や国庫納付金(2024年度は206億円)の存在が、医療現場の財政をさらに圧迫している。河村構成員は「国の財政も危なく、もう危なくなってきている」と述べ、特別会計時代のような国による無限責任は期待できないと警告している。

6. 福島党首の質問の意味——防衛費と医療費の優先順位

福島党首が「赤字の国立病院救えよ」と発言した背景には、防衛費の増額(2027年度までにGDP比2%)と医療費の抑制(社会保障費の高齢化範囲内抑制)という、政府の財政優先順位への疑問がある。

装備移転円滑化基金への三菱重工三菱電機への助成(合計483億円)と、国立病院の赤字(NHO 375億円+国立大学病院 400億円超)を比較すると、福島党首の「軍需産業優先」という批判は、数字の上で一定の根拠を持つ。

しかし、小泉防衛大臣は「防衛産業はいざという時に命を守る大切な仕事」と反論し、機密保全の必要性を強調した。この対立は、安全保障民生福祉の財政配分をめぐる構造的な緊張を映し出している。

 

(参考文献:国立病院機構令和6年度財務諸表、独立行政法人評価有識者会議議事録、国立大学病院長会議資料、日本医師会緊急経営調査、総務省地方公営企業等決算報告、産経新聞、m3.com、日本医事新報、GemMed等)

 

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