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12月7日に放送されたTBS系『サンデーモーニング』(毎週日曜 前8:00)で起きた、わずか数秒の空気の変化。けれどその数秒には、いま永田町で起きている騒動の核心が、ぎゅっと詰まっていたように思う。
「秘書がキレた」――首相の口から飛び出した、想定外の答弁
ことの発端は、『週刊文春』が報じた一件である。高市早苗首相の陣営が、自民党総裁選の局面で誹謗中傷動画を作成したのではないか、という疑惑だ。文春側は、その裏付けとして、首相秘書のものとされる音声データを公開している。
番組では、この疑惑を追及する野党の国会質疑の様子が紹介された。音声データを突きつけられた高市首相の答弁は、おおよそ次のようなものだった。
「あのような音声をもとに判断することは難しゅうございます」
「違和感がありました」
「確認のしようがございません」
言葉を選びながら、ややかわす調子。ここまでは、永田町で日常的に見かける答弁の風景である。問題はこのあと、「秘書本人に確認したのか」と問われた瞬間に起きた。
高市首相はこう答えたのだ。
「(本人に)聞いてみてくれと言ったら、なんで私が有料会員にならなきゃいけないんですかと、なんで私がお金を払わなきゃいけないんですかと、キレられましたよ」
国会の答弁席で、秘書が「キレた」。しかも、その理由は週刊文春の有料会員費を払うのが嫌だから――。永田町ウォッチャーをそれなりの年数やってきた私の感覚で言っても、これはなかなか聞かない種類の説明である。
膳場貴子の「うん?」が静かに刺した違和感
VTRが明けたスタジオで、膳場キャスターは小さく首をかしげた。あの「うん?」だ。決して声を荒げるわけではない。ただ、視聴者の心の内側にすっと指を差し込むような、独特の間の取り方だった。
続けて、膳場キャスターはこう投げかけた。
「秘書がキレたから確認ができなかった?…ということなんですけど、これ違うのであれば、すみやかに確認して否定すべきかなと思うんですけど」
言われてみれば、その通りなのだ。もし本当に身に覚えがないなら、秘書がキレようが拗ねようが、雇い主である首相サイドが事実関係を白黒つけるのが筋ではないか。そもそも「有料会員になりたくない」という秘書側の言い分が、国政の追及をかわす理由として成立するのか、というそもそも論もある。
膳場キャスターは、感情を煽ることをしない人だ。長年『報道特集』で培ってきた、事実を淡々と並べて視聴者に判断を委ねるスタイル。だからこそ、たった一言の「うん?」が、ストレートな批判よりも鋭く刺さる。
朝日や東京新聞が報じた「キレられました」答弁の全体像
この答弁、実は新聞各紙でも大きく扱われている。朝日新聞によれば、首相は「昨日、夜中から何度か電話をした。今朝方、ようやくつかまり、本人に話をした」と説明したうえで、「キレられましたよ。でも、私は音声を確認した」と発言したという。
一方、東京新聞は、首相が秘書に音声を「聞かせていない」とした点を強調している。秘書側の言い分として「『ひどい取材をされて一方的に書き立てるところになぜお金を払わないといけないのか』と(秘書に)キレられた」と、より生々しいフレーズも引用されていた。
つまり、首相本人は音声に「目を通した」とは言うものの、肝心の本人確認――「これ、あなたの声ですか」と問う作業――は行われていない、というのが客観的な経緯になる。
これは、ちょっと不思議な構図ではないか。普通、組織のトップが部下の疑惑に直面したとき、最初にやるのは「お前、これやったのか?」と本人に詰めることである。会社員時代に上司から呼び出された経験のある人なら、誰もが直感的にわかるはずだ。
なぜ「秘書がキレた」では国民は納得しないのか
ここで一度、整理しておきたい。今回の答弁が炎上気味に受け止められている理由は、たぶん大きく三つある。
- 主語の問題――トップが部下の不祥事疑惑に対して「本人がキレたから確認できない」と説明すること自体、管理職としての立場を放棄しているように映る。
- 順序の問題――本人確認より先に「違和感がある」「判断は難しい」と否定的なニュアンスを出しており、結論ありきに見えてしまう。
- 説明責任の問題――文春が音声を公開している以上、有料会員云々の話ではなく、政権側として独自に検証する筋合いがある。
膳場キャスターが投げかけた「違うのであれば、すみやかに確認して否定すべき」というコメントは、まさにこの三つを一行に凝縮したものだった。彼女のコメントには、いつもこういう構造的な鋭さがある。
『サンモニ』というメディアの立ち位置
『サンデーモーニング』は、関口宏さんが長年牽引してきた看板番組だ。2024年4月から膳場キャスターが新たな顔として登場し、すでに2年近くが経つ。番組の論調は「平和」「人権」「報道の自由」を軸に据えており、政権との距離感はしばしば話題になる。
その中で膳場キャスターが選ぶ言葉は、いつも抑制的だ。声を張らない。決めつけない。けれど、聞き流せない。今回の「うん?」は、その典型例だったと思う。
テレビの政治コメントは、どうしても「叩く側」と「擁護する側」に分かれて単純化されがちだ。けれど、視聴者が本当に求めているのは、白か黒かのジャッジではなく、「いま自分が抱いているモヤモヤを、ちゃんと言葉にしてくれる人」ではないだろうか。膳場キャスターの存在感は、そこに静かに応えている。
これから問われるのは「確認する気があるかどうか」
政治のスキャンダル報道は、しばしば泥仕合になる。今回の中傷動画疑惑も、文春側と高市陣営の主張が真っ向からぶつかっており、第三者が真偽を断定するのは現段階では難しい。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。それは、「秘書がキレたから確認できなかった」という説明は、国政のトップの答弁としては成立しにくいということだ。膳場キャスターの「うん?」は、その一点を視聴者に思い出させた。
今後、首相サイドが秘書本人にきちんと話を聞き、結果を国会の場で説明するのか。それとも、このまま「確認のしようがございません」で押し通すのか。日曜の朝に首をかしげたキャスターのひと言が、政権の誠実さを測るリトマス試験紙になっていく予感がする。
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